まだ名前のない星
一年生になって、
わたしは
ひとりで
学校へ行くようになりました。
知らない子が、
たくさんいました。
学校は、
きらいじゃありません。
でも、
休み時間になると、
なにをしたらいいのか
わからなくなりました。
ある日の帰り道。
道のすみっこで、
なにかが
光っていました。
石かな、と思って
ひろってみると、
ちがいました。
星でした。
星をひろったのは、
はじめてでした。
どうしたらいいのか
わからなかったので、
とりあえず、
家につれて帰りました。
星を
どこにおけばいいのかも、
わかりません。
箱に入れると、
まっくらです。
机の上だと、
ころころ。
そこで、
空いていた瓶に
入れてみました。
つぎに困ったのは、
ごはんです。
星って、
なにを食べるんだろう。
パンをあげてみました。
食べません。
りんごも、
食べません。
牛乳は、
お母さんに
止められました。
「おなか、すかないの?」
星は、
なにも言いませんでした。
ただ、
ちかっ。
一回だけ
光りました。
つぎの朝。
カーテンを開けると、
朝の光が
瓶の中に入りました。
すると、
星が、
ぱあっと明るくなりました。
「これが好きなの?」
カーテンを閉めて、
もう一度、
開けてみました。
ちかっ。
もう一回。
ちかっ。
どうやら、
この子は
ひかりが好きみたいです。
それから毎朝、
学校へ行く前に
カーテンを開けました。
「いってきます」
ちかっ。
星も、
いってらっしゃいと
言っているみたいでした。
学校から帰ると、
いちばんに
星を見ました。
「ただいま」
ちかっ。
ちかっ。
「今日は二回だね」
星とくらしていると、
少しずつ、
わかることが増えました。
朝の光が
好きなこと。
雨の日は
静かなこと。
夜になると、
少しだけ高いところに
浮かぶこと。
わたしは、
学校のことも
話しました。
「算数、ぜんぶできたよ」
ちかっ。
「給食のピーマンも、
ちゃんと食べた」
……。
「そこは光らないんだ」
楽しかったことも。
いやだったことも。
だれにも
言わなかったことも。
星には、
なんでも話しました。
ある日の休み時間。
いつも、
窓ぎわの席で
本を読んでいる子が
いました。
話しかけてみようかな。
でも、
なんて
言えばいいんだろう。
考えているうちに、
休み時間は
終わりました。
その日の帰り道。
となりの席の子に、
思いきって
言いました。
「いっしょに帰らない?」
でも、
「今日は、
みーちゃんと帰るの」
そう言って、
走っていきました。
雨が降ってきました。
家に帰っても、
「ただいま」と
言いませんでした。
ランドセルを置いて、
そのまま
ベッドにもぐりました。
ちかっ。
星が光りました。
わたしは
見ませんでした。
ちかっ。
もう一度。
それでも、
見ませんでした。
しばらくすると、
ふわっ。
星が、
瓶から
出てきました。
星が瓶から出たのは、
はじめてでした。
星は、
わたしの枕のとなりに
おりました。
「わたしね」
「きょう、
ひとりだったんだ」
「星はいいね」
「ひとりでも、
平気そうで」
星は、
光りませんでした。
ただ、
そこにいました。
朝になりました。
目をさますと、
星は
瓶に戻っていました。
カーテンを開けました。
ちかっ。
「きのう、
ありがとう」
そう言って、
学校へ行きました。
休み時間。
あの子は、
今日も
本を読んでいました。
わたしは、
ちょっとだけ
どきどきしながら、
「それ、
なに読んでるの?」
と聞きました。
その日の帰り道は、
ひとりではありませんでした。
家につくと、
いちばんに
星のところへ行きました。
「ただいま」
ちかっ。
ちかっ。
「きょうね――」
それから、
たくさんの日が
過ぎました。
楽しい日も。
泣いた日も。
忘れてしまった日も。
星は、
いつもそこにいました。
いつのまにか、
瓶の中にも
小さな夜空が
できていました。
月が出る夜。
流れ星が通る夜。
星とすごした時間が、
少しずつ
たまっていくみたいでした。
そういえば、
星には、
まだ名前がありません。
何度も考えたけれど、
どれも
しっくりきませんでした。
でも、
もう
困りませんでした。
名前がなくても、
この子のことを
たくさん
知っていたからです。
ある夜。
星が、
いつもより高いところに
浮かんでいました。
瓶の、
いちばん上。
そして、
ずっと窓の外を
見ていました。
わたしには、
なんとなく
わかりました。
「行くの?」
ちかっ。
ちかっ。
窓を開けようとして、
やめました。
「やだ」
「まだ、
ここにいてよ」
学校でひとりだった日。
泣いて帰った日。
うれしかった日。
眠れなかった夜。
いつも、
星がいました。
だから、
もう少しだけ。
もう少しだけ、
いてほしいと
思いました。
星は、
なにも言いません。
ただ、
窓の向こうを
見ていました。
それから――
窓を開けました。
星が、
ゆっくり
瓶から出ました。
わたしの前で、
一度
止まりました。
言いたいことは、
たくさんありました。
「いってらっしゃい」
やっと、
それだけ
言いました。
ちかっ。
ちかっ。
小さな光が、ゆっくり上へのぼっていきます。
星は、
大きな夜空へ
のぼっていきました。
次の朝。
いつものように、
カーテンを開けました。
朝の光が、
からっぽの瓶に
入りました。
学校へ行きました。
休み時間になると、
「今日、
いっしょに帰ろ」
あの子が言いました。
「うん」
わたしは答えました。
帰り道。
星をひろった場所を
通りました。
少しだけ、
立ち止まりました。
「どうしたの?」
「ううん。
なんでもない」
その夜。
窓を開けました。
空には、
たくさんの星。
どれがあの子なのか、
わかりませんでした。
「ただいま」
言ってみました。
しばらく、
なにも起きませんでした。
「……おやすみ」
遠くで、小さな光が、ちかっ。少しして、もう一度、ちかっ。
どの星だったのかは、
もう、
わかりませんでした。
でも、
それでいいのです。
あの子が
朝の光を好きなこと。
雨の日は
静かなこと。
「ただいま」と言うと、
ときどき
二回光ること。
わたしは、
ちゃんと
知っています。
そういえば、
さいごまで、
名前を
つけませんでした。
でも、
名前がなくても
わかります。
あの星は――
わたしの星でした。
おやすみ。
おしまい
このお話の世界で、
小さな星と
過ごすことができます。
星をそだてる
App Store で見るこのお話が、
紙の絵本になったら。
手元に置いてみたいと思った方は、
そっと教えてください。
ありがとうございます。